「今日って何してたっけ?」
ボクはカバンを下ろしながら、脳内の記憶フォルダを開けてみた。ああ、そうだ。宿を変えたんだ。3日間お世話になったドミトリーを出て、噂の「1泊100バーツ個室」に舞い込んだ。日本円にして約450円。破格の安さだ。
個室っていいんだな。ボクはこれまでドミトリーで「まあまあリラックスしている」と思い込んでいた。でもいざ、この個室に足を踏み入れてみたら、リラックスの次元がまるで違った。肩の力がふわっと抜ける感じ。部屋は確かにボロい。天井の隅っこに蜘蛛の巣のようなものが見えた気もするし、ベッドは「やせたパンの上に寝てますか?」ってくらい頼りない。それでも、壁ひとつ隔ててボクの世界が存在するという事実が、妙に心地いい。まるで世界の喧騒が遠のいたみたいだ。
そんないい気分で、ボクはようやく作業を始めた。ここに来て4日目。これまでは街ブラブラして「新しい街だ!」ってテンションで歩き回っていた。でもね、人間って飽きるもんだな。観光だ、街歩きだなんて言いながら、結局ボクは「何しにここに来たんだっけ?」と空を見上げてしまう。
「そろそろ、ちゃんと作業しなきゃなあ。」
この気持ちって、他の海外ノマドも感じるんだろうか。新しい街に到着するとまずは「見なきゃ!」って駆けずり回って、そのまま気づけばパソコンを閉じたまま数日。観光ノマドと作業ノマド、その狭間で揺れ動く心。ああ、ボクはやっぱりこのパターンにどっぷりハマっていたらしい。
窓の外から聞こえるバイクの音が、今日も変わらずせわしない。でもボクの個室は静かだ。450円の部屋がくれたのは、ボロさじゃなく、ボクだけの小さな世界。作業をする手が止まったら、この街のことをちょっとだけまた歩こうかな。
そんなことを考える4日目の夕暮れだった。
2024/12/17