午前8時、LINEが鳴った。相手は元嫁ちゃん。眠気も吹き飛ぶような緊張感の中で折り返すと、彼女の声は深く沈んでいた。
「お母さんが亡くなった。」
昨日まで穏やかに流れていた日常が、いきなり断崖に突き落とされたようだった。土曜日に会った時の、あの元気そうな笑顔が頭をよぎる。現実感がなくて、まるで夢を見ているみたいだった。
いそいで葬儀場へ向かい、元嫁ちゃんと合流。見積もりや段取りの話を進める中で、不意に浮かんでは消えるお義母さんの笑顔。現実的な作業の向こう側に、温かな記憶が広がる。それは一見薄いヴェールのようで、実は深い絆そのものだったのかもしれない。
夜になると、元嫁ちゃんの兄妹が集まってきた。「とりあえず飯にしよう」と言いながら、気づけばみんなでお義母さんの話に花を咲かせていた。涙を拭う人、ふっと笑う人。お義母さんはその場にいないはずなのに、なぜかみんなの間に座っている気がした。そう、静かで温かな存在感として。
その後、お義母さんとよく行った飲食店に足を運んだ。ママさんに訃報を伝えると、驚いた顔のまま、元嫁ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「お母さん、ほんまに素敵な人やったな…。」
彼女の言葉は短かったけど、その温もりは言葉以上だった。
亡くなったから言うわけじゃない。お義母さんは本当に優しい人だった。元嫁ちゃんと結婚してた頃、ボクはどん底だった。無職でガチヒキ。そんな自分に対しても、お義母さんは一度たりとも嫌な顔を見せなかった。「元気?」と優しく声をかけてくれて、さりげなくご飯を用意してくれた。彼女の存在そのものが、弱った心に灯る明かりのようだった。
「みんなおらんなるよな…。」
ふと口をついて出たその言葉に、自分が歳をとった証を感じた。こうして世代は巡り、交代していく。だけど、その中で受け継がれる優しさや思い出は、まるで糸のようにしっかりと繋がっている。そんなことを実感した一日だった。
2024/12/09