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タワービールに怯える元嫁ちゃんと、生春巻きに夢中な午後三時

しばらく足が遠のいていた今里に、ふと思い立って元嫁ちゃんと行ってきた。今里というのは、ちょっとしたアジアの集合場所で、ベトナムや中国の人たちがたくさん暮らしてる。大阪の下町感に異国の香辛料が混ざり込んだような、そんな不思議な街。

一軒目は元嫁ちゃんがGoogleMapで見つけた店。車を停めて歩きながら「ここ、前に来た店やなー」って言った瞬間、元嫁ちゃんがあっさりと手のひら返し。「じゃあ、いっか。違う店行こ。探すわ」ってスマホとにらめっこ。

で、次に見つけた二軒目。案の定、また前に来た店。なんやねん、もう笑うしかない。しかもボクが結構気に入ってた店やったのに、「やっぱ初めての店にしたい」と譲らない元嫁ちゃん。なるほど、今日は“冒険したい日”らしい。

三度目の正直で、ようやく新規開拓に成功。えらく広いベトナム料理屋に滑り込んだ。注文したのは、赤ちゃんアサリの炒め物、エビの串焼き、それから生春巻き。名前だけじゃ何かわからない料理も、口に入れると一気に広がる異国の風景。特に赤ちゃんアサリ。あれはもう、アサリ界の赤ちゃんというより、そぼろ肉を食べてるような感覚だった。

小さすぎて、何かの卵の化石かと思ったくらい。元嫁ちゃん、見た瞬間「これ食べていいやつなん?」と一瞬引いてた。いや、ボクも正直ちょっと思った。けど、それが意外とイケる。一緒に出てきた胡麻のライスクラッカーもカリカリと手が止まらない。

次の店ではレア牛肉のフォーと、バインミーのパン、ベトナム風シチューのセットをオーダー。フォーの湯気の奥から牛肉の香りがふわっと漂ってくる感じが、なんか旅先の朝食っぽくて良かった。異国の朝を味わう午後。

ちなみに元嫁ちゃんはここでも生ビールを頼んだんだけど、店員さんがそのあとで巨大なタワービールにビールを注ぎ始めた瞬間、顔がフリーズしてた。「え?うちら、あれ頼んでないよな…?」って、小声で混乱中。確かに日本語通じない店だし、そういう行き違い、あり得る。でも安心して、タワービールは隣のテーブルへ流れていった。ボクらのじゃなかった。セーフ。

食後は久しぶりに今里の通りをぶらぶら歩く。前よりもベトナム食材の店が増えてて、知らない看板がちらほら。何軒か覗いたけど、物価高の波はこんなところにも押し寄せていた。250円だったベトナムコーヒーが、今は400円。思わず「高っ」と声が出たけど、よそで買うよりはまだマシ。下町価格の面目躍如。

家に帰ったらイラスト練習するつもりだったんだけど、玄関を開けた瞬間、全身が鉛になった。畳の海に沈むように、ただただゴロゴロ。そんな休日も、まぁアリ。